ZIGGY
HEAVEN AND HELL II
多分みんなティピカルなものを想像していたと思うんだよね。
でも、それってさ、予定調和じゃん?
森重樹一/「UV」インタビューより
問題作になった通称・金盤「HEAVEN AND HELL」の続編……とは言え、前作にあったパンキッシュな疾走感とは全く正反対のスロー、ミディアム中心の落ち着いたアルバムだ。
前作は速い曲ばかりだったため、スーパードラマーとしてのJOEがクローズアップされたが、今作では松尾のギターが一躍クローズアップされる形となっている。得意のスライドギターが冴え渡る[4]はもちろんだが、既に一部で「エレキよりもうまい」と言われていたアコースティック・ギターのプレイが素晴らしい。ギタリストとしての松尾は、近年、練り込まれていないアドリブ中心のプレイが目立っていたが、今回はどの曲も今までと比べて格段にアレンジ面で練り込まれており「ギタリスト・松尾宗仁」の株を上げる一枚になったのではないだろうか。
こういった企画になるとバラード集になりがちなものだが、単純なバラード集ではなく、ブルース([4][10])、ジャズ([9])、フラメンコ([8])などの要素が加わった楽曲が効果的に挟まれるなどバラエティに富んでおり、各曲の完成度も極めて高い。
オープニングは、意表をついて津谷作の[1]。ビートルズ的(と言うよりポール・マッカートニー的)なアコースティックナンバーであるこの曲は、津谷の音楽的素養の広さ、深さを知らしめる名曲と言って良いだろう(なお、スリーフィンガーの印象的ギターは、津谷によるもの)。続いて戸城憲夫的テイストも感じさせる通好みのナンバー[2]を経て、森重、松尾にとって3度目の録音になる[3]へ…。この曲がまた秀逸だ。きちんと考え抜かれた編曲も良いが、森重の芳醇な香りのボーカルが何よりも素晴らしい。キーが一音下がっている事が、ある意味、森重の声の衰えを感じさせる…といった見方も可能だが、過去のバージョンと比べて圧倒的に向上した表現力が、森重樹一というボーカリストの今を象徴している。(何かを失うことによって何かを得ることが出来る。それはとても素晴らしいことなのだ…)
リメイクは、他にも[7][9]が収められているが、旧バージョンとは全く違う味付けがなされており、過去の楽曲のただの焼き直しとは違うプラスアルファを充分に感じさせてくれる。また、金銀のコンセプトを象徴し、前作に引き続き収録された[5]は、メロディの良さを金盤のバージョン以上に引き出すことに成功しているアコースティック・バージョン。
しかしこのアルバム最大の聞き所は[11]だ。ある意味、これは森重樹一の最高傑作バラードと言っても良い。トライベッカの高樹リオ(彼女は松尾の誘いで[9]にも参加)のゴスペル風コーラスとともに感動的に盛り上がるこの曲を聴くためだけでもこのCDを買う価値があると断言したい。
年を取ると柔軟性が失われ、新しい音楽を聴いても感動できなくなる。しかし、このバンドは私にとって「時は誰も」「世界の果てまで」と約1年に2回も素晴らしい感動を与えてくれたのだ。ZIGGYの各メンバーに最大級の感謝を捧げたい。
※この記事は過去に運営されていたファンサイトの記事を元に再構成させていただきました。